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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1187号 判決 1980年12月24日

控訴人・附帯被控訴人 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士 吉原歓吉

右指定代理人東京都事務吏員 篠原茂

<ほか二名>

被控訴人・附帯控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 北沢孜

同 町田正男

主文

1  本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の、附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の各負担とする。

事実

控訴人・附帯被控訴人代理人(以下、「控訴代理人」という。)は、「原判決のうち控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)敗訴部分を取消す。被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。本件附帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人(以下「被控訴代理人」という。)は控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として、「原判決のうち被控訴人敗訴部分を取消す。控訴人は被控訴人に対し金一二〇万円及びこれに対する昭和五二年一〇月二一日より支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示(原判決二枚目―記録一四丁―裏四行目から原判決六枚目―記録一八丁―表九行目までと、原判決添付図面(一)を含む。)と同一であるから、これを引用する(但し、原判決二枚目―記録一四丁―裏九及び一〇行目に各「弾効」とあるのを「弾劾」と改める。)。

《証拠関係省略》

理由

一  当裁判所は、被控訴人の本訴請求につき、原判決認容の限度においてこれを正当として認容し、その余は失当として棄却すべきであるとするものであって、その事実認定及びこれに伴う判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由説示(原判決六枚目―記録一八丁―裏一行目から原判決一一枚目―記録二三丁―裏二行目「これを棄却することとし、」までと、原判決添付別紙図面(一)、(二)とを含む。)と同一であるから、その記載を引用する。当審における新たな証拠調の結果をもってしても、右認定・判断を左右するに足りない。

1  原判決六枚目―記録一八丁―裏四、五、六行目に各「弾効」とあるのを「弾劾」と改める。

2  原判決九枚目―記録二一丁―表五行目に「原告本人の供述により成立を認め得る」とあるのを「いずれも原審における被控訴本人の供述によりその主張のとおりの写真であると認められる(甲第一号証の被写体が被控訴人であることは、当事者間に争いがない。)」と改める。

3  原判決九枚目―記録二一丁―表六、七行目「前記各証人の証言及び原告本人の供述」とあるのを「前記各証人、当審証人北沢孜及び原審における被控訴本人の各供述」と改める。

4  原判決一〇枚目―記録二二丁―表二行目に「原告」とあるのを「被控訴人(当時年令三十台であった)」と改め、同表五行目に「右斜め前方」とある次に「(その場所が車道上であったか、歩道上であったかは明らかではない。)」と加入する。

5  原判決一〇枚目―記録二二丁―表末行の次に次のとおり加える。

「原審における被控訴本人の供述中には、被控訴人は殴打され鼻血を出した直後、瓜生に対して「あなたも見たでしょう、機動隊がこういう暴行をするとはどういうことなのか」と抗議した旨の供述が見られ、右供述に《証拠省略》を総合すれば、被控訴人は鼻血を出したが一瞬の出来事であり、至近距離にいた多数の機動隊員は同じような体格、服装、装備であり、かつ、その直後に逸早く全員その場を退去したため、殴打したとする隊員を追及、確認することができず、瓜生を責任者とみてその場で同人に対し殴打されたことにつき抗議を執ように繰り返した事実が認められ、右の状況に照らせば、被控訴人が暴行を加えたとする隊員を確認して直接抗議をなしえなかったこともやむをえなかったものといえないでもないから、被控訴人の右の態度を必ずしも不自然であるとすることはできない。また、原審における被控訴本人の供述中機動隊員の位置、着装していた籠手の色に関する部分にはあいまいな点が見受けられるが、前認定のように、咄嗟の間に生起したその場の状況に照らせば、右の点について被控訴人に正確な認識がえられなかったとしてもやむをえないといえようから、被控訴本人の右供述部分をとらえてその供述全体を採用しがたいとすることはできない。

当審証人瓜生宏、同山崎波雄の各供述中には被控訴人が瓜生と対面している間に機動隊員が被控訴人を殴打した事実は見かけず、現場で被控訴人から機動隊員が被控訴人を殴るのを見ただろうといわれたのに対し再三隊員が殴るのは見かけない、殴っていないのではないかと繰り返し答えた旨の部分がある。しかし、右瓜生証人の供述の他の部分によれば、被控訴人が瓜生と対面している間に他のデモ参加者や機動隊員と接触したり衝突したこともなくやや顔を上に向け鼻水でもすするようにくすんくすんとやった直後瓜生は突然すうっと鼻血が出てきたのを見たというのであり、また、右山崎証人の供述によっても被控訴人が鼻血を出すに至った原因については分からないというのであるところ、本件全証拠を検討しても前認定の事実以上の蓋然性をもって被控訴人が鼻血を出すに至った他の原因(たとえば当時被控訴人が鼻疾患にかかっていたなど)が存すると認め又は推認するに足りる証拠はなく、右各供述から前認定を覆すことはできない。」

6  原判決一一枚目―記録二三丁―裏二行目「これを棄却することとし、」を「これを棄却すべきである。」と改める、

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないから民事訴訟法三八四条に従いいずれもこれを棄却すべく、控訴費用、附帯控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部秀信 裁判官 村岡二郎 宇野榮一郎)

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